資質向上の研修計画

 介護職員処遇改善の算定要件(キャリアパス要件、職場環境等要件)においても、職員の資質向上のための研修を行うことが推奨されています。

 中でも、コミュニケーション技術、協調性、問題解決能力、マネジメント能力の向上が望まれます。これらは、介護職だけではなく他の職種においても必要とされる、基本的な職業能力または基本ビジネスマナーと呼ばれるような内容です。

職業能力 + 職務能力 → 問題解決能力

 職業人としての問題解決能力は、技術力をあげるだけでは高まりません。読み書きそろばんレベルの「職業能力」というベースが身についていることが大前提になります。

3つの能力

  • 問題解決能力
    問題とは、事故的に発生した悪い出来事ということではなく、課題のための解決目標ということです。問題解決能力は、より良くするために目標を発見して、どうしたら良いかを考えて実行に移す能力です。
  • 職務能力
    その仕事を行うために直接必要となる技術や知識です。介護職で言えば、ケアーのための技術や介護保険に関する知識などです。介護職員初任者研修や介護福祉士講習などで学ぶ内容です。
  • 職業能力
    社会人としての基本マナーや、職務を遂行するうえで必要とされる基礎的な知識などです。いわゆる、読み書きそろばんと言われるようなことで、どの職業でも必要とされる内容です。


     研修の手法や形式についても、適切なやり方を選ぶようにしましょう。外部研修には外部研修の良さ、社内研修には社内研修の良さがあります。

資質とは

 そもそも「資質」とは何でしょう。辞書を引くと「もって生まれた性質や才能」とあります。何をもって資質があると言えるのか評価が分かりにくく、もって生まれたものをどうやって向上させるのかまったくもって検討がつきません。

 仕事における「資質」は、感情や意識レベルのことと整理できます。介護では、心を伴わないと単なる業務になることが懸念されます。利用者への直接の介護サービス以外でも、他の職員との連携や家族やその他の関係者との関係性において、様々な場面で気遣いが求められます。
 そうした、業務を行ううえで基本的な取り組み姿勢を「資質」と呼ぶと考えられます。
 さらに、「資質の向上」というからには基本的な取り組み姿勢だけではなく、「業務遂行能力」や「問題解決能力」につなげていきましょうというになります。

介護職にはどのような資質が求められるでしょうか?

  • 仕事に取り組む意欲
  • 相手を気遣う配慮
  • 和を保つ協調性
  • 感情を制御する理性
  • 不快感を与えない接遇
  • 清潔感のある服装や所作
  • 規律を守る実直さ
  • 良識があり誠実な人柄
  • 偽りのない明快な言動
  • 福祉に携わる者としての誇り
  • 五感を大切にする感性
  • プライバシー保護
  • 事故の再発防止
  • 緊急時対応

職員の資質向上を阻む介護の職場の課題

  • 職員同士がすれ違うシフト体制
  • 本人のコミュニケーション能力不足
  • 様々な職種が関り指示系統が不明確
  • 利用者・家族の意向が第一
  • 個々の状態に合わせた介護サービス
  • 介護保険制度という絶対ルールがある

人間力とは

 対人援助職においては、千差万別な対象者の状況に応じ、様々な対応が求められます。難しいケースに対応するには、人間力が必要であると言われますが、人間力とは何でしょうか。
 内閣府に置かれた人間力戦略研究会では、人間力を「自立した社会人として生きるための総合的な力」と定義づけています。

  • 知的能力的要素
    基礎学力・専門的な知識・論理的思考力・創造力など
  • 社会・対人関係力的要素
    コミュニケーションスキル・リーダーシップ・公共心・規範意識など
  • 自己制御的要素
    知的能力や社会・対人関係力を発揮するための、意欲・忍耐力・向上心など

     

OJT、Off-JT、SDS を組み合わせた研修計画

 研修はできるだけ現場の業務に支障がないように、計画を立てる必要があります。現場研修、座学講座、外部研修を組み合わせることで、効率的に成果が上がる研修を行うことが可能になります。

OJT
(On-the-Job Training)
現場研修
Off-JT
(Off-the-Job Training)
現場外研修
SDS
(Self Development System)
自発的研修
実際の職場で、仕事をしながら学ぶ職場から離れて、研修だけを行う自発的に参加する外部研修など
  • OJT(On-the-Job Training)現場研修
     職場で仕事をしながら先輩のやり方を、説明を受けながら見よう見まねで学びます。
     対人援助の介護職は、机の上ではなく実際の場面で臨機応変に行わなくてはならないことが多いため、OJTはとても有効です。ただし、利用者側に教育素材であることを悟られると不安を与えてしまいます。事故が起きないように細心の注意が必要です。
     OJTで気を付けなくてはならないのは、研修担当者の適正です。任命された研修担当者が適任かどうか、上司は監督する必要があります。
    • 間違ったことを教えていないか(正しいやり方を担当者自身が理解しているか)
    • 自分のやり方を押し付けていないか(事業所の方針に合っているか)
    • 教える速さや内容が適当かどうか(いっぺんに教え込まない)
    • 研修ネグレクト(説明しない、無視する)をしていないか
    • OJTのステップ
      STEP1仕事に対する意識や心構えを伝える
      STEP2手本を示し、仕事の説明をする
      STEP3安全を確保しながら、本人にやらせる
      STEP4評価し、修正点等を説明する
      STEP5同様の仕事を何度か行う

  • Off-JT(Off-the-Job Training)現場外研修
     職場から離れて、研修を行います。落ち着いた環境で知識や技術を学べるので、専門的な内容をしっかりと身につける時に有効です。また、利用者や他の関係者の前で話題にしにくい内容(事例研究など)の場合は、別室で行う配慮が必要です。
     Off-JT終了後は、知識として身につけただけに終わらず、実際の現場で生かせるようにフォローアップが大切です。

  • SDS(Self Development System)自発的研修
     職員自身が、自発的に知識や技術を学ぼうとすることです。いかに自己啓発し、やる気を出させるかがカギになります。27年度法改正では、事業者は職員の自発的研修を支援することを明記しています。
    • 経済的援助(外部研修などの受講料、交通費、教材費などの援助)
    • 時間的援助(シフト調整の配慮、有給取得の承認、研修時の勤務扱いなど)
    • 精神的援助(モチベーション向上のための支援体制)

通所介護事業所の必要研修項目

 介護サービス情報公表システム※1の、事業所運営にかかる各種取り組みにある「従業者の研修の状況等」で位置づけられている研修項目は下記のものが示されています。(通所介護の場合。サービス種別によって若干異なります)

  • 全ての「新任」の従業者を対象とする研修
  • 全ての「現任」の従業者を対象とする研修
  • プライバシーの保護の取り組みにかかる研修
  • 倫理及び法令遵守にかかる研修
  • 事故の発生予防等に関する研修
  • 緊急時の対応に関する研修
  • 感染症・食中毒の予防及び蔓延防止に関する研修
  • 身体拘束等の排除にかかる研修
  • 非常災害時の対応に関する研修(避難・救出等に関する訓練)
  • サービスに関する情報の共有についての研修

 また、福祉サービス第三者評価※2の評価項目に挙げられている中にも、研修が推奨されるものがあります。

  • 事業所の理念・ビジョン・基本方針の理解
  • 情報の保護・共有(個人情報保護・開示請求への対応)
  • 接遇・態度
  • 利用者同士のトラブルに関する対応
  • クレーム対応

 研修を実施した際には、研修実施記録や参加者の報告書などを残しておくことも大切です。

※1 介護サービス情報公表システム 厚生労働省が提供する介護事業所・生活関連情報検索システム。通称WAMNET


※2 福祉サービス第三者評価 事業所の特徴やサービスの質などの評価結果を公表する事業。都道府県ごとに推進機構が設置され、評価機関が事業所の評価を行います。

研修計画立案と実施記録の保存

 研修は年間計画を立てて行うのが理想です。処遇改善加算や第三者評価等でも、研修計画は重要な評価項目になります。また、職員本人の自発的な研修参加を支援する仕組み作りも大切です。学びたい時が伸びる時、職員の意欲を尊重することは他の職員にも良い刺激になります。

研修実施のおもな流れ

予算確保年間予算を予め確保して計画を立てることが基本
外部研修参加の場合の会社負担額などを決める
計画立案○研修企画書
○外部研修参加申請書
内容決定○狙いと目的
○対象者・参加予定人数
○研修方法(OJT、集団研修、外部研修、eラーニング等)
○カリキュラム・内容
○講師手配、テキスト・資料の準備
告  知○全職員向け(案内掲示等)
○対象職員向け(個別の文書等、ただし実施することは他の職員にも知らせる)
実  施不参加者には資料を配布するなどして参加実績と同等の扱いをする(資料を配布したことを証する受領印などをもらう)
報  告○参加報告書(参加者本人が作成)
○実施報告書(企画者、研修担当者が作成)
成果の確認○本人評価(直後・一定期間経過後
○上長評価(直後・一定期間経過後)